もってけドロボー!


上へ上へとキャリアを築いていくのであれば、積極的に前に出て依頼された仕事を次から次へと的確に打ち返すことが最善だとは思います。けれど若い頃にある程度の業界の空気を吸ったとき、自分の場合はむしろ潜って自分に向き合い自分に合った筋力を鍛えていく方が良いなと感じました。 だから独立したときからファッション業界から投げられるボールは、あえて受け取らないように意識してきたました。 

 

ギャラリーを中心とした制作・販売活動は、コロナ禍を経てその流れが少し変わったように感じています。他の作家の方々もきっと私たちと同じような気持ちではないでしょうか。考える間もなく次々と制作や展示を打ち返さざるを得ず、苦しさの中で工夫を重ねて乗り切っているようにも思います。

今が「正解」かどうかは分かりません。けれども、実のところ正解であるか否かは、それほど重要ではないとも感じています。社会の主流にはうまく馴染めない中で自分らしさを維持するために続けてきた制作活動は、お客様や取引先を通じて社会とつなげてくれる“翻訳機”のような存在です。

だからこそ、意味があるかどうか、売れるか売れないかに関わらず、一つひとつの形には「デザイン」というよりもむしろ、明確な意思(メッセージ)を込めています。

先日、靴下工場の担当者から「御社にそっくりな靴下を作っているメーカーがある」と連絡がありました。さっそく実物を購入してみて確認しましたところ品質の良し悪しは別として、見た目はほとんど私たちのものと変わりませんでした。工場への持ち込みや卸先の“インスパイア”はこれまでもありましたが、ここまで似たケースは初めてで驚きです。 

デザインやコンセプトが真似されること自体は、時に良い影響につながることもあるのでまったく気にしていません。ただ、そこに意思(メッセージ)が無く商業的な思惑しか存在しないときは、とても残念に思います。

……とはいえ、それでも一度くらいは言いたくなるのです。

ドロボー! 

そんなわけで、しばらく「泥棒」テーマの洋服が続きます。