ハタフェスと揉めたはなし

先回りして「どうなるか」を想像することは効率を高める為に大切な事ですが、人生一度きりと思い立ち秋川渓谷に拠点を移してからは「やったらどうなるかわからないこと」ばかりを選ぶように、、、切ったり貼ったり、掘ったり運んだり、植えたり水をまいたりと、効率は悪く考えても時間をかけても上手くいかないことのほうが多い日々を過ごしています。 それでも指先ひとつで大抵のことを知る事も頼む事も出来てしまう時代だからこそ、自ら手足を動かして得られる気づきには、他者と共有しきれないような特別な感動があると実感しています。

幸いなことに私たちの洋服づくりは、そうした姿勢を理解してくださる工場の方々に支えられています。 そのなかから今回の「手作り洋服キット」では、生地はテンジンファクトリーの小林さん、整理加工は富士山整理の小杉さんにご協力いただきました。未経験の方でも半日ほどで縫い上げられるよう簡単に、また特別な道具や設備がなくても取り組めるようにと、図面を新たに今回の為だけに書き下ろしています。 

 

人気がある物に惹かれたり写真や情報が先行してしまうのは仕方がない事ですが、物を使っていく上で大切な「包まれて心地よい。手に馴染む」といったやさしさやあたたかみを受ける感覚は、目に見えるものでも言葉で表せるものでもなく、制作過程で積み重ねられた小さな小さな作り手の想像の結晶から生まれるものです。ブランドや流行を追いかけることや着こなしを楽しむこと、所有欲を満たすこととは別に、裁断から縫製まで自分の手で一着を仕上げるからこそ味わえる楽しさがあります。未知の事に対して手を動かすことで得られる感度を皆さまとも共有できたら本当に嬉しく思っています。

 

フェリシモ(クチュリエ)さんから洋服制作キットのお話をいただいた際、あらためて手作りキットの本を手芸店で手に取ってみたのですが、、、驚いたことに本の内容も、並んでいる生地も、学生だった25年以上前とほとんど変わっていませんでした。
その時に自分にもまだできることがあると強く感じ、翌週には担当者を車に乗せて富士吉田の産地を巡り、私たちが普段見ている景色を実際に見てもらいながら、織物産地が抱える魅力や課題を共有しました。 そのうえで、キット制作に携わる関係工場の取材も含めて進めることを条件にお受けしたのは、数年前に富士吉田の行政と産地PRの方法をめぐって意見が合わず、叱責を受けた経験があったからでもあります。今回の取り組みは、私たちなりの「こうあるべきPRのかたち」を示す試みにもなっています。